城下やえがき整形外科

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城下やえがき整形外科

2025年07月05日 弾発股について

 

弾発股(だんぱつこ)は、股関節を特定の方向に動かしたときに「ポキッ」「ゴリッ」「カクッ」といった音や、何かが弾ける・引っかかるような感覚が生じる状態の総称です。英語では「Snapping Hip Syndrome」と呼ばれます。症状としては以下の4つが挙げられます。

音が鳴る:股関節を動かすと、「ポキッ」や「カクッ」といった音が聞こえることがあります。

引っかかり感:股関節を動かすと、引っかかるような感覚を感じることがあります。

痛み:音や引っかかり感に伴って、股関節やその周囲に痛みが生じることもあります。特に長時間の歩行や立ち仕事をした後に痛みが強くなることがあります。

可動域制限:股関節の動きが制限されることもあり、深いスクワットや足を広げる動作が難しくなることがあります。

音が鳴るだけで痛みを伴わない場合も多いですが、繰り返すうちに炎症を起こして痛みが生じ、日常生活やスポーツ活動に支障をきたすこともあります。

弾発股は、音の鳴る場所や原因によって、主に3つのタイプに分類されます。

弾発股の3つのタイプ

1. 外側型(がいそくがた)弾発股

  • 概要: 最も多いタイプです。股関節の外側で音が鳴ります。

  • 原因: 太ももの外側にある厚い靭帯組織である「腸脛靭帯(ちょうけいじんたい)」や、その付け根の「大腿筋膜張筋(だいたいきんまくちょうきん)」が、太ももの骨の外側にある出っ張り「大転子(だいてんし)」の上を乗り越える際に、弾けるようにして音が発生します。

  • 音の出る動作: 歩行、ランニング、階段の昇り降り、股関節を曲げ伸ばしする時など。

  • 特徴:

    • 自分で音の鳴る場所を指差すことができる。

    • 横向きに寝て、脚を動かすと音を再現できることがある。

    • 大転子周辺に炎症が起こり(大転子部滑液包炎)、痛みを伴うことがある。

2. 前方型(ぜんぽうがた)弾発股

  • 概要: 股関節の付け根(鼠径部)の深い部分で音が鳴ります。

  • 原因: 上半身と下半身をつなぐインナーマッスルである「腸腰筋(ちょうようきん)」の腱が、骨盤の骨の出っ張り(腸骨隆起)や、大腿骨頭(太ももの骨の先端)の上を乗り越える際に音が発生します。

  • 音の出る動作: 股関節を伸ばした状態から曲げる時(例:仰向けで脚を上げる)、脚を外に開いてから元に戻す時など。

  • 特徴:

    • 「関節の奥の方で鳴る」と感じることが多い。

    • 前述の**関節外インピンジメント(腸腰筋インピンジメント)**と密接に関連しており、痛みを伴いやすい。

3. 関節内型(かんせつないがた)弾発股

  • 概要: 上記2つとは異なり、股関節の関節の中に原因があります。

  • 原因:

    • 関節唇損傷(かんせつしんそんしょう): 関節の受け皿の縁にある軟骨(関節唇)が傷ついて、その断片が引っかかる。

    • 関節内遊離体(ゆうりたい): 軟骨のかけらなどが関節内を動き回り、骨の間に挟まる(いわゆる「関節ねずみ」)。

    • 股関節FAI(大腿骨寛骨臼インピンジメント): 骨の形態異常による衝突そのもの。

      1. CAM型(骨性インピンジメント)

      • 特徴: 大腿骨のボール状部分(大腿骨頭)が異常に大きく、丸みを帯びておらず、股関節の臼蓋とぶつかります。

      • 原因: 大腿骨のボール状部分が骨の成長過程で異常な形状を取ることにより、股関節の動きが制限されます。

      • 症状: 股関節の前部に痛みを感じることが多く、特に深く座る動作や足を外に広げる動作で痛みが強くなることがあります。

      • 治療法: 初期段階では、痛みの管理と運動療法が主な治療法です。進行した場合は、手術が考慮されます。

      2. PINCER型(臼蓋型インピンジメント)

      • 特徴: 臼蓋(骨盤の股関節を形成する部分)が過剰に発達し、股関節のボール状部分を挟み込んでしまいます。

      • 原因: 骨盤の臼蓋が異常に広がっており、股関節の動きに干渉します。

      • 症状: 股関節の前面や内側に痛みが生じ、特に長時間座っていると痛みが強くなることがあります。歩行や階段昇降時にも痛みが出ることがあります。

      • 治療法: CAM型と同様、軽度な場合はリハビリや薬物療法が有効ですが、進行すると手術が必要となることもあります。

      3. 混合型(CAM + PINCER)

      • 特徴: CAM型とPINCER型の両方が併存している状態です。このタイプでは、大腿骨の形状と臼蓋の両方に異常が見られます。

      • 原因: 両方の異常が同時に存在するため、股関節の可動域が大きく制限され、痛みも増大します。

      • 症状: 典型的には、前述のCAM型とPINCER型の症状が混合して現れます。特に動作の際に痛みが強く、日常生活に支障をきたすことがあります。

      • 治療法: それぞれのタイプの治療方法を組み合わせた治療が行われます。手術による修正が必要なことが多いです。

       

特徴:

  • 「ゴリッ」「ガクッ」といった鈍い音や、引っかかり感(キャッチング)、ロッキング(急に動かなくなる)を伴うことが多い。

  • 他のタイプに比べて痛みが強い傾向がある。

  • 特定の角度で急に痛みが出ることがある。

 

診断方法

  1. 問診・理学所見:

    • いつ、どんな動きで、股関節のどのあたりで音が鳴るかを詳しく確認します。

    • 医師が患者の股関節を動かし、意図的に音を再現するテストを行います。

  2. 画像検査:

    • ダイナミック超音波検査(エコー):**弾発股の診断に最も有効な検査です。**実際に股関節を動かしながら、超音波で筋肉や腱が骨の上を滑る様子をリアルタイムで観察し、音の原因となっている動きを直接確認できます。

    • レントゲン検査:骨の形態異常(FAIなど)や、関節の隙間の状態を確認します。

    • MRI検査:関節内型が疑われる場合に、関節唇や軟骨の状態を詳しく評価するために行います。腸腰筋の腱の炎症なども確認できます。

治療法

治療の基本は、痛みのない弾発股は経過観察、痛みを伴う場合は保存療法から開始します。

1. 保存療法

  • ストレッチ:最も重要な治療法です。原因となっている硬くなった筋肉や腱をゆっくり伸ばします。

    • 外側型の場合:腸脛靭帯や大殿筋、大腿筋膜張筋のストレッチ。

    • 前方型の場合:腸腰筋のストレッチ。

  • リハビリテーション(理学療法):専門家の指導のもと、ストレッチに加え、体幹や股関節周囲の筋力トレーニングを行い、関節の動きを安定させ、特定の筋肉や腱への負担を減らします。

  • 生活指導:音が鳴る動作や、痛みを誘発する動作を一時的に避けます。

  • 薬物療法:痛みが強い場合に、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の内服や外用薬(湿布)を使用し、炎症を抑えます。

  • 注射療法:痛みが非常に強い場合、超音波ガイド下で炎症を起こしている部位(滑液包や腱の周囲)にステロイド注射を行い、強力に炎症を抑えることがあります。

2. 手術療法

保存療法を3〜6ヶ月以上続けても痛みが改善せず、日常生活に大きな支障が出ている場合に検討されます。

  • 関節鏡視下手術(内視鏡手術):現在の主流です。小さな切開からカメラと手術器具を挿入し、モニターを見ながら行います。

    • 外側型:硬くなった腸脛靭帯を一部切開して緩める(リリース)。

    • 前方型:緊張の強い腸腰筋腱を一部切開して緩める(リリース)。

    • 関節内型:損傷した関節唇の修復や、遊離体の摘出など、原因に応じた処置を行います。

弾発股はありふれた症状ですが、痛みを伴う場合は、その裏に筋肉や腱の炎症、あるいは関節内の損傷が隠れている可能性があります。

「ただ音が鳴るだけ」と放置せず、特に痛みが続く場合は、一度整形外科(できれば股関節を専門とする医師)を受診し、どのタイプの弾発股なのか正確に診断してもらうことが大切です。正しい診断に基づいた適切なストレッチやリハビリを行うことで、多くの場合、症状は改善します。

 

 

症例紹介です

先日当院を受診された患者は、弾発股で気になって受診されました。レントゲンで左臼蓋形成不全がわかり、保存療法でリハビリテーション中心に行っています。このように弾発股症状を感じた方は股関節の形態異常が隠れている場合がありますので、当院を受診ください。

臼蓋形成不全が股関節に与える影響

 

臼蓋形成不全とは、股関節の屋根(受け皿)である「臼蓋」の発育が不十分で浅い状態です。これにより、以下の2つの大きな問題が生じます。

  1. 不安定性:
    屋根が浅いため、大腿骨頭(太ももの骨の先端)がしっかりと覆われず、関節が不安定になります。グラグラしやすい状態と言えます。

  2. 筋肉への過剰な負担:
    この不安定な関節を安定させようと、股関節周囲の筋肉や靭帯が常に頑張って働き、過剰な緊張状態になります。

この**「不安定性」「筋肉の過緊張」**こそが、臼蓋形成不全の人が弾発股になりやすい根本的な理由です。

1. 外側型弾発股との関係(最も多いパターン)

  • メカニズム:

    1. 臼蓋形成不全により股関節が不安定(特に内外方向のグラつき)になります。

    2. 体はこれを補うため、股関節の外側にある筋肉群(中殿筋、大腿筋膜張筋など)を常に緊張させて関節を支えようとします。

    3. この持続的な過緊張により、大腿筋膜張筋とそれに連なる「腸脛靭帯」が硬く、分厚くなります。

    4. 硬く肥厚した腸脛靭帯が、太ももの骨の外側の出っ張り(大転子)を乗り越える際の摩擦が非常に強くなり、「ゴリッ」「ポキッ」という弾発音が生じやすくなります。

2. 前方型弾発股との関係

  • メカニズム:

    1. 臼蓋の被りが浅いと、大腿骨頭が前方にずれやすい「前方不安定性」を持つことがあります。

    2. この前方へのズレを防ぐブレーキ役として、股関節の前を走るインナーマッスル「腸腰筋」が過剰に働きます。

    3. 常に緊張を強いられた腸腰筋の腱は硬くなり、股関節の前の骨の縁を乗り越える際に引っかかり、弾発音を生じさせます。

3. 関節内型弾発股との関係

  • メカニズム:
    臼蓋形成不全では、浅い臼蓋の縁にある軟骨組織「関節唇」に、てこの原理で過大なストレスがかかり続けます。これにより関節唇が傷つきやすく(関節唇損傷)、その断裂した部分が関節内で引っかかることで弾発音や痛みを引き起こします。
    これは、臼蓋形成不全が将来的に変形性股関節症へ進行していく過程で起こる病態の一部とも言えます。

まとめ

弾発股はありふれた症状ですが、痛みを伴う場合は、その裏に筋肉や腱の炎症、あるいは関節内の損傷が隠れている可能性があります。

「ただ音が鳴るだけ」と放置せず、特に痛みが続く場合は、一度整形外科(できれば股関節を専門とする医師)を受診し、どのタイプの弾発股なのか正確に診断してもらうことが大切です。また臼蓋形成不全や臼蓋や大腿骨寛骨臼インピンジメントや変形性股関節症と言った股関節の形態異常もわかる場合もあります。正しい診断に基づいた適切なストレッチやリハビリを行うことで、多くの場合、症状は改善するケースもあります。