2024年07月20日 投球障害について〜甲子園予選〜
いよいよ夏の一大イベント、全国高校野球選手権大会(通称、夏の甲子園)が始まります。
本大会に先立って、7月9日から青森大会が始まりました。前大会の覇者である地元の八戸学院光星ですが、同校としては夏の甲子園3年連続出場がかかっていましたが、残念ながら青森山田に敗れてしまいました。
さて、全国高校野球選手権大会に参加する選手の健康を支援する活動に、理学療法士が参加していることをご存じでしょうか。主催者である日本高等学校野球連盟などの依頼のもと、試合前のテーピング、試合中の救急対応、試合後にはアイシングなどを実施しているそうです。このように専門職のサポートが必要なほど怪我がつきもののスポーツですが、当院スタッフ一同、選手の皆さんに怪我がないことを祈りつつ、この夏の熱い戦いを応援したいと思います。
そこでお伝えしたいのは野球で非常に多い投球障害についてです。私自身も学生時代に野球をしており野球肩に悩まされてきました。今なおスポーツ医療が発達していく中で投球障害に悩む選手が1人でも多く解決し、目標に向かって活躍していけるようになっていただきたいと思い、今回は野球肩について発信していきます。
概要含め投球障害についての流れです。
1 症状
2 評価
3 治療法
4 予後
5 リハビリスタッフから
投球障害の概要
- 投球動作を繰り返すことで肩の痛みや機能障害が生じる状態のこと
- 成長期の選手では、骨端線にストレスがかかり、骨端線炎などの障害が起こりやすい
- 原因は投球動作の不良や投球回数の過多など、様々な要因が考えられる
- 症状には肩の痛み、可動域制限、筋力低下などがある
1 症状
- 腕を上げるときの痛み
- 投球時、または投球後の肩の痛み
- 関節が動く範囲(関節可動域)の制限
- 力が入りにくく、全力投球ができない
- 球速が下がった、遠投で遠くにボールを投げられなくなった
2 評価
投球障害は、投球動作の異常や障害によって引き起こされる問題です。投球動作は身体全体で行う高度な動きであり、一部の機能障害が投球動作の乱れを招き、組織損傷の要因となります。そのため、投球障害の評価では、以下のような点に着目して行います。
1)問診
(1)発生時期と経過
- 投球障害が初めて発症した時期
- 症状の経過(徐々に悪化したのか、急性発症したのか)
- 症状の変化(痛みの程度、可動域の制限など)
(2)障害部位
- 痛みや障害が生じている部位(肩関節、肘関節など)
- 痛みの性質(鈍痛、鋭痛、筋肉痛など)
- 痛みの発生タイミング(投球時、投球後など)
(3)競技歴
- 野球の経験年数
- 主なポジション
- 1シーズンの投球本数
- 投球時の疲労感の有無
(4)治療歴
- これまでの治療内容(リハビリ、注射療法、手術など)
- 治療効果
- 再発の有無
(5)生活習慣
- 睡眠状況
- 栄養状態
- ストレス状況
これらの情報を詳しく聞き取ることで、投球障害の原因を特定し、適切な治療方針を立てることができます。また、専門のスポーツ医学科や理学療法士などの協力を得ることも重要です。さらに、投球障害の予防には、柔軟性や筋力の向上、適切な投球フォームの習得、投球量の管理などが重要です。投球障害の予防と早期発見、適切な治療が選手のパフォーマンス向上につながります。
2)画像所見
投球障害の画像所見には以下のようなものがあります:
- 上腕骨近位骨端線障害(リトルリーガーショルダー)
- 投球により上腕骨近位骨端線が障害され、骨端線の幅が広くなった状態
- 初期は投球が禁止されるが、単に安静をとるのではなく肩甲帯や下肢の柔軟性向上などのリハビリが重要
- 肩関節周囲の画像所見
- 肩関節唇損傷、腱板損傷、関節包の肥厚や瘢痕化などが見られる
- 肩関節の不安定性や可動域制限、筋力低下などの所見も確認される
(3)画像診断の重要性
- 投球障害の診断には、単純X線撮影、MRI、CT、超音波検査などの画像診断が重要
- 画像所見と臨床症状を総合的に評価し、適切な治療方針を立てることが重要
(4)肩関節の可動域評価
- 肩関節の水平屈曲、外旋、内旋の可動域を測定し、正常範囲内かどうかを確認します。
- 可動域の制限は投球障害の原因となる可能性があります。
(5)筋力評価
- 肩関節周囲の筋群(特に後方筋群)の筋力を評価します。
- 筋力の低下は投球障害の要因の1つとなります。
5)関節不安定性の評価
- 肩関節の前方、後方、下方の不安定性を確認します。
- 関節不安定性は投球障害の原因となる可能性があります。
6)投球フォームチェック
投球フォームはワインドアップ期、早期コッキング期、後期コッキング期、加速期、フォロースルー期の5つの相に分けられ、それぞれに役割があります。
- ワインドアップ期:投球動作の準備期といわれ、支持脚で体重を支えながら体幹・下肢の回旋エネルギーを蓄える
- 早期コッキング期:ワインドアップで蓄えたエネルギーを投球方向に身体重心を並進移動しながら伝えていく。その時体幹・上肢は投球方向と逆の運動をする
- 後期コッキング期:投球方向に脚を踏みこんでから投球側肩関節が肩最大外旋位になるところまでを指す。投球動作の中で疼痛を訴えやすいポイントの一つ。
- 加速期:コッキング期での並進運動に、下肢・骨盤帯・体幹の投球方向への回旋運動が加わることで蓄えられた運動エネルギーが、上肢の鞭打ち様運動から連鎖的にボールへ伝達される。
- フォロースルー期:ボールリリース後に上肢の減速動作を行い、投球動作が終了するまでを指す。加速してきた上肢を急激に減速する必要があり、肩関節には体重と同等の牽引力が加わる。
実際にシャドウピッチングで動画を撮り、どの相で負担がかかっているか、機能が低下しているのかを患者さんと一緒に確認し、共有します。
3 治療法
投球障害肩の治療は、肩の機能訓練やコンディショニングを中心とした保存治療です。日常生活でも痛みがでるほど症状が強い場合は、一時的な投球制限が必要となります。手術が適応となるケースはごくまれです。
投球障害肩の原因は、投球フォームや全身的なコンディショニング、肩の機能低下に起因しており結果として痛みを出している要因は一つではありません。MRIなどの画像検査では部分的な損傷などが描出されますが、あくまで結果としての損傷であるため、そこだけを治療しても良い結果にはなりません。根本的な原因にアプローチし、解決策を見出していく必要があります。
障害が早い段階であれば、保存治療で大多数が改善し、プレーに復帰することができます。どうしても長期間プレーに復帰できない場合、関節唇損傷によると思われるひっかかりが強い場合、腱板損傷の程度が強い場合などごく限られた場合にのみ手術が行われます。
1)保存療法
投球障害に対する保存療法の主な目的は、痛みの軽減と機能の回復です。保存療法には以下のような方法があります
- 柔軟性と筋力の向上
- 肩関節、肘関節、体幹、下肢の柔軟性を高める
- 肩甲骨周囲筋、上腕二頭筋、上腕三頭筋、三角筋など投球に関与する筋群の筋力を強化する
- 投球動作の改善
- 投球フォームの分析と指導
- 投球時の力学的負荷を軽減するための動作修正
- 理学療法
- 痛みの管理 (温熱療法、電気療法など)
- 関節可動域訓練、筋力強化訓練
- 固有受容感覚訓練、バランス訓練
- 装具療法
- 肩関節や肘関節の固定、サポートによる安静
- 薬物療法
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の内服により、消炎鎮痛として炎症と痛みを抑えることができます。関節内にステロイド剤を注射することで、強力な抗炎症作用が得られ、痛みの緩和が期待できます。
- その他
PRP療法やPFC-FD療法、ショック波療法などの先進的な医療技術も活用されています。
4 予後
- 良好な予後が期待できる場合
- 初期症状が軽度で、適切な保存療法(リハビリ、投球動作の改善など)が行われた場合
- 適切な休養期間を設け、徐々に投球を再開できた場合
- 予後が良くない可能性がある場合
- 症状が重篤で、保存療法では改善が見られない場合
- 適切な治療が行われずに投球を続けた場合
- 再発のリスクが高い場合
投球障害の手術療法は、保存的治療で改善しない場合の最終的な選択肢となります。手術法や術後のリハビリなど、患者の状態に合わせて最適な治療法を選択することが重要です。
5 投球障害リハビリスタッフより
まずは投球を休止し、痛みを和らげることが大切です。無理な投球は症状を悪化させる可能性があるため、しっかりと休息をとることが必要です。痛みが和らいだ上で、肩関節の可動域や筋力の改善に取り組みます。柔軟性と筋力のバランスを整えることで、投球時の負荷を軽減できます。次に投球動作の分析を行い、フォームの問題点を特定します。肩甲骨の動きや体幹、下肢の筋力などを改善することで、適切な投球フォームを身につけられるよう取り組みます。
1)ストレッチ方法
①肩後面ストレッチ
図で言えば右の前腕を12時の方向から下方向に下げます。
肩が浮き上がらないように左手で肩を抑えます。
- 肩前面ストレッチ
写真のように壁に手を当て、体を壁と反対方向に向けていきます。
- 胸郭ストレッチ
写真のように体を下半身と反対方向に捻っていきます。
上半身につられないように右手で下半身を抑えます。
- 内転筋ストレッチ
写真のように右腕を脚と反対方向に向かって捻っていきます。
- 大腿後面・内転筋ストレッチ
写真のように台に脚を乗せて踵を軸に足を前、後交互に動かしていきます。
大腿後面の、他に内転筋もストレッチできます。
2)筋力トレーニング
- インナーマッスル
※上の段左から続けて下の段へ
肩の外旋・外転動作が加わった総合的なインナーマッスルトレーニング
- 上腕三頭筋トレーニング
台に手を乗せ、外向きに捻ります
肩・肘関節の安定性を高めます。
- 大腿後面筋トレーニング
1枚目の様にステップした後に、さらに1足分前にステップします。
- 体幹トレーニング
前にステップした時に瞬時に上半身を折りたたみます。
6 最後に
現代の野球もいうものは個々の能力がもの凄くレベルが高くなっている印象があります。140、150㎞を投げるのが当たり前の時代。背景として1番の要素は環境やトレーニング方法の変化だと思います。令和に移り変わり多様性が重視され型にはまらない思考が増えてきている。だからこそ、練習や治療方法などの選択肢はたくさんありますし、自身にとって適正である方法で取り組んで行っていただきたい。またその選択肢や道筋を提供するのが私達治療家の最大の義務であります。今回の記事を通じて1人でも多くの選手のきっかけになる事、そして益々のご活躍を願い結びにさせていただきます。
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