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2024年09月24日 変形性膝関節症(knee osteoarthritis: KOAもしくは膝OA)を知ろう!

「変形性膝関節症(以下 膝OA)は、関節軟骨の変性・損傷および摩耗、軟骨下骨の硬化、半月板変性などを特徴とした、緩徐ながらも進行性の関節の変性疾患である。進行に従って、痛みを伴い、関節機能、移動能力、ADL(日常生活動作)の低下を招く¹⁾」とあります。

OAは運動器疾患障害による移動機能低下を生じる、近年よく聞かれるロコモティブシンドローム*の代表的な疾患です。

*年齢を重ねることによって筋力が低下したり、関節や脊椎などの病気を発症したりすることで運動器の機能が低下し、立ったり、歩いたりといった移動機能が低下した状態

主たる症状は膝痛ですが、初期にはだるさや鈍重(どんじゅう)感、こわばりとして表現され、しゃがむ、起立などの荷重動作時に疼痛が生じます。病態の進行とともに自発痛、夜間痛が加わります。

動作的には、階段昇降時や座位からの起立時に痛みが出現します。痛みを感じる側の脚を床に接地する時に、疼痛を避けるように歩く回避性跛行(はこう)をみとめ、関節破壊が重度であれば体重をかけた時に膝関節が側方に動揺する横ぶれ(thrust:スラスト)を生じます。

図1 関節の構成(膝関節では関節軟骨の間に半月板が入ります)

原疾患のない一次性と、原疾患に続発して発症する二次性とに大別されます。一次性がほとんどを占め、遺伝的素因などの全身的要因に膝関節への機械的ストレスが加わり、先に説明した関節軟骨や半月板、軟骨下骨、靭帯などの関節構成体が変性して生じます。

 

2 膝OA分類

一方、二次性では骨折、関節、骨壊死、脱臼などの原疾患や外傷で生じた前関節症変形に加齢変化が加わり進行します。

一次性に関しては、機械的因子(メカニカルファクター)の影響が大きいとされます。俗にいうO脚(内反)、X脚(外反)と呼ばれるアライメント(配列)、膝伸展(膝を伸ばす)筋力低下、歩行時スラスト(膝関節が側方に動揺する横ぶれ)現象、可動域の制限、内側半月板変性が膝OAのリスク因子である可能性を指摘されています。

二次性に関しては、前十字靭帯(ACL)損傷と半月板損傷のその後の経過を調査したものがあります²⁾。

それには、ACL損傷後に膝OAを発症する確率は非損傷の膝と比較して約4倍、ACL損傷と半月板損傷の複合損傷では非損傷の膝と比較して約6倍とされています。

 

疫学研究に関しては2009年に変形性関節症(OA)に関する世界最大規模の疫学研究が日本で報告されました。その名もROAD study³⁾です。

そもそも膝OAは、立位で単純X線(レントゲン)を撮影しKellgren-Lawrence分類を用いて診断し、明らかな骨棘を認めた場合をグレードIIと判断し、これ以上を膝OAと判定します。

 

 

図3 単純X

それには、膝OAは我が国には約2500万人の有病者が存在し、うち800万人程度が膝痛を有する²⁾推定されています。また、職業や活動性については農業、林業、漁業は事務職や技術職より膝OAおよび変形性腰椎症の危険性が高いことや、正座やしゃがみ込み動作は膝関節の骨棘形成や関節裂隙狭小化に影響することが示されています。

ただ、膝OAにおいてレントゲン上の重症度が必ずしも痛みの程度を反映するものではなく、さらにはレントゲンには映らないさらに早期の膝OAが近年報告されております。早期変形性膝関節症と言います。

その診断にはMRIが必要です。MRIは、関節軟骨、半月板、関節内靭帯、滑膜、骨髄、軟骨下嚢胞、およびX線写真では検出できないその他の関節周囲および関節内病変を含む、膝関節のほとんどの構成要素を視覚化します。MRIOAの典型的な特徴である骨の変化を検出するために、X線写真よりも感度が高いです。

図4 MRI

2012年 ESSKA Cartilage Committee Consensus Meetingは、最近1年間で10日以上続く膝関節痛のエピソードが2回以上あり、膝関節立位単純X線で(骨棘は認めてよいが)関節裂隙の狭小化を認めず、関節鏡あるいはMRIのどちらかで軟骨の変化を認めるものを早期変形性膝関節症としました⁴⁾。

 

細かい定義は抜きにして“10日以上続く膝の痛み”がある場合、受診された方が賢明かと思われます。

「加齢に伴い関節組織の分子レベルや生体力学的な異常が生じ、疼痛を中心とする症状が出現し、早期変形性膝関節症を発症する。さらに解剖学的構造の破綻へと進行し、単純X線像で異常を呈し、変形性膝関節症と診断される。早期変形性膝関節症の発症時には解剖学的汎化がすでに生じており、MRI,バイオマーカーなどによる早期診断の確立が望まれる⁵⁾」とあります。

 

図5 早期変形性膝関節症

つまり何事もそうですが、早期診断・早期治療が重要ということです。

選択される治療は、患者教育(生活指導、運動指導)、薬物治療、物理療法、装具療法、運動療法などの保存療法や、関節鏡下手術、膝周囲骨切り術、人工関節置換術などの手術療法があります。

まずは保存療法が優先されます。関節の障害が重度でありますと手術療法となります。

よく聞かれるものをとりあげて説明いたしますと

・ヒアルロン酸関節内注射

OAの保存的治療のひとつとして臨床的に広く使用されています。ヒアルロン酸関節内注射は、膝OAの病態である関節液の粘弾性低下、炎症と疼痛、軟骨破壊の病態に対し、滑膜、軟骨、軟骨下骨などに作用することで、関節局所への力学的負荷や炎症、関節破壊に対して防御的に作用することが期待されています。

・装具⁶⁾

 膝関節装具や外側楔状足底板を用いた装具療法は除痛効果ありとされますが、靴および一本杖に関しては有意な効果がみとめられないとされています。膝装具の役割としては、①変形の矯正と予防、②関節の運動制限と固定、③関節運動の補助、④免荷があげられます。O脚の場合、内側関節面への圧縮ストレスが増大することで内側の関節軟骨の摩耗を引き起こし、変形が助長されるという悪循環が生じます。

種類は、軟性装具(サポータータイプ、支柱付きタイプ)、機能的膝装具(brace)などがあります。

PRP

血液中の血小板を濃縮したもので、組織の再生に関連する成分を抽出して疾患のある部位に投与する再生医療の一種です。現在は保険適応外でありますが、当院でも徐々に投与を希望される患者様が増えております。

・手術療法 

HTO(膝周囲骨切り術) TKA(人工膝関節全置換術) UKA(人工膝関節単置換術)などがあります。

特に、TKAの有用性については、数多くの臨床研究で良好な成績が示されており、疼痛の軽減、膝関節機能(関節可動域、支持性)の改善、ADLおよびQOLの改善が認められています。手術に関しては、合併症発症率、医療コストなどの多方向から判断されます。TKAは7万件/年、耐用年数2030年とされています。

 

基本的な情報は 【変形性膝関節症ガイドライン2023】を参考に作成しております。

引用文献

1)羽田晋之介 他.MRIを用いた早期変形性膝関節症の病態解析.Bone Joint Nerve Vol.6 No.3 2016

2) poulsen E et al. Knee osteoarthritis risk is increased 4-6 fold after knee injury- a systematic review and meta- analysis. Br J Sports Med.2019;53(23):1454-63

3) Yoshimura N, et al. Prevalence of knee osteoarthritis, lumbar spondylosis, and osteoporosis in Japanese men and women: the research on osteoarthritis/osteoporosis against disability study. J Bone Miner Metab 2009; 27: 620-628

4) Luyten FP et al. Definition and classification of early osteoarthritis of the knee. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc 20: 401-406

5)大関信武 他.早期変形性膝関節症の概念. Bone Joint Nerve Vol.6 No.3 2016

6)出家正隆 他.変形性膝関節症に対する膝装具療法の最近の知見. 関節外科 Vol.29 No9 2010